捏造と贋作 セカンド・アルバム   top 


Polarity Integration
ポーラリティ・インテグレーション
(極性の統合)

ポーラリティ・インテグレーションとは、たとえ ば、

良い/悪い、本物/偽物、男性性/女性性などの

両極のものを統合することです。二極性の枠に

こだわることとはどうもクリエイティヴで豊かな状態
ではないように思えるのと、同じバンドのレパート
リーにしては両極にあるようなスタイルの曲をやっ
ていたり、1曲の中に両極にあるようなスタイルを
混在させたりしていることからこのタイトルにしま
した。ヴィジュアル面でもこうしたことを展開しよ
うとしています。

このアルバムは2006年の8月〜10月にかけてファース
ト・アルバム「ライテスト・タッチ」とほぼ同時期
に録音しました。
作曲期間は2月〜3月にかけてとレコーディングの直
前、作詞は8月〜9月でした。
全体によるセッションが2日、ホーンのダビングが

一日、その後パーカッションのダビング、シンセサイ
ザーとヴォコーダのダビング、ヴォーカル入れ、ミ
キシングに数日という日程でした。どちらかといえ
ばハードなスケジュールでしたがまとまったサウン
ドに仕上がりました。
捏造と贋作のアルバムで初めて全曲が

久保田シンゴ 作詞/上野耕路作曲です。
このレコーディングを通してロックというジャンル は

他のジャンルの音楽よりもレコーディングに運命
付けられた音楽だということを再認識しました。ク
ラシックにおけるアルバムは記録、ジャズにおける
アルバムはセッション、ロックにおけるアルバムは
ある世界観を持った作品のことを指すからです。

収録曲                               top

1. Asian Insane
2. Don Juan or Tristan?
3. Angel Wings
4. Le chocolat séducteur
5. The Wild Cactus
6. Mazurka
7. The Spy Who Loved JB Too Much
8. La vie urbaine
9. Sunny Raindrops
10. Youth Song
11. Millie



1. Asian Insane
エイジアン・インセイン
ブラスとヴォカリーズによるイントロはベネチアの
初期バロックの作曲家ジョヴァンニ・ガブリエーリ
(1557頃〜1612)を意識しました。少し遅れて出てく
るピアノのアルペジオは都節音階的なフリジアン・
スケールでタイトルにもあるアジアな感じを出そう
としています。歌のメロディ/コード進行は60s風と
グラム・ロック風な感じが混在しています。リフレ
インは幾分エキゾティック・サウンド的なメロディ
を意識しています。今回のレコーディング用に作っ
た曲で一番最後に出来た曲です。
日本を含めアジアの都市は、この曲のように雑多
で、しかも都市デザインにも一貫性が無いのは言う
までもないことです。
タイトルと長いピアノ・ソロは明らかにデイヴィッ ド・

ボウイの「アラジン・セイン」を意識していま す。

ある時Aladdin Saneというタイトルに分節の仕方を
変えるとSane(正気)の反意語のInsaneが潜んでいる
ことに気がつきこのタイトルが浮かびました。しか
しネットでこの言葉を検索するとアジアのポルノの
サイトがヒットします。

2. Don Juan or Tristan?
ドン・ファン・オア・トリスタン?
ドン・ファン(イタリア読みだとドン・ジョヴァン
ニ)もトリスタンも歌劇(トリスタンが主人公の
「トリスタンとイゾルデ」は楽劇-Musikdrama-という扱
いだがオペラも楽劇も表現形態は基本的に同じ)の
中の主人公ですが、一方は女たらしの代名詞、もう
一方は一人の女性に命をかける男性のアーキタイプ
(原型)を指す言葉として定着しています。この歌
の主人公は一体どちらなのかわからないようになっ
ています。
この曲と"Sunny Raindrops"と"Youth Song"はバブルガム・

ト リロジー(三部作)として構想されました。言うま
でもなくバブルガムとは1967年頃、ブリティッ シュ・

インヴェイジョンと言われる一連のイギリス 出身の

バンドによるアメリカのヒットチャートの席巻が少し

落ち着いた頃に出て来た軽めのポップソン グを

やるアメリカのバンド、1910フルーツ・ガム・
カンパニー、オハイオ・エクスプレスなどのサウン
ドのことです。モンキーズもその範疇に含まれるか
もしれません。それらの軽さとトリロジー(三部 作)

というバブルガムの対局にあるようなプログ レッシヴ・

ロックが時折使った言葉を並列させると いう面白さが

創作に弾みをつけてくれました。
コンガのダビング、ファルフィサ(ある時期ハモン ド

に対抗したイタリアの電子オルガン)風の音色に よる

キーボード・ソロがその辺りの雰囲気を出す事
に貢献しているようです。ブロンディっぽくも聴こ
える曲です。

3. Angel Wings
エンジェル・ウィング
ロキシー・ミュージックのアルバム「マニフェス
ト」(1979)の中の"My Little Girl"に触発されて作りまし
た。タイトルの方はやはり同じアルバムの"Angel 
Eyes"に影響されました。
全般的にどことなくブライアン・フェリー風なバ
ラードですが、デヴィッド・リンチがよく組む作曲
家アンジェロ・バダラメンティの雰囲気もあり、そ
こからリンチ的なムードに繋がる何かがあるかもし
れません。特にリフレインの"Hello, My Friend"とそれに
後続してカノン風に出てくる女性ヴォーカル+ヴォ
コーダーの"Bonjour en ami" の辺りがそう聴こえなくも
ないかと思われます。間奏はサイケデリック時代の
ビートルズを意識しました。

4. Le chocolat séducteur
ル・ショコラ・セデュクトゥール
(誘惑のショコラ)
ハバネラのリズムを使いました。ハバネラのリズム
で有名なのはビゼー(1838〜75)の「カルメン」
の"L'amour est un oiseau rebelle"です。ヒッチコックの
「めまい」の中の悪夢のシークエンスでもハバネラ
のリズムが効果的に使われてました。
1930〜40年代のラテンのポピュラーは、ともすると

そ の頃のヨーロッパのポピュラーよりも特にコード

進 行がヨーロッパ的(ロマン派的)であったりしま
す。それにならいコード進行をヨーロッパ風にしま した。
松永さんのクールなベース・ラインはブリティッ
シュ・インヴェイジョンのリフのようにもレゲエの
リフのようにも聴こえます。

5. The Wild Cactus
ザ・ワイルド・カクタス
6/8拍子と3/4拍子が交互するリズム、ファンダンゴに
よる曲です。ファンダンゴのリズムで有名な曲は、
例えば「ウェストサイド物語」の「アメリカ」、
バーナード・ハーマン(1911〜75)によるヒッチコッ
クの映画「北北西に進路をとれ」の音楽などが上げ
られます。
ロックではあまり使わないm7b5(マイナーセブンフ
ラットファイブ)を多用しています。しかしサビは
ロックンロール風。間奏は前半がホーン各自のソロ
(増井ー田澤ー宮野)、後半がメロディの短縮形に
よるヴォカリーズ。ヴォカリーズの箇所は少しバ
ロック風なので、聞いていてブラジルの作曲家エイ
トル・ヴィラ=ロボス(1887〜1959)のブラジル風
バッハの雰囲気やラテン・アメリカとバロックの組
み合わせなどを思い出してもらえたらとても嬉し
いです。
歌に登場するサボテンは本当のサボテンなのかサボ
テン型宇宙人なのかそういう名前で呼ばれた伝説の
ガンマン(ホドロフスキーの映画「エル・トポ」に
登場するような)なのか想像しながら聞いてくださ
い。

6. Mazurka
マズルカ
マズルカはポーランドの舞曲で3拍子だけど1拍目が
強調されるワルツと違って2拍目が強調されるとい
うものです。前作のポロネーズに引き続き、ポーラ
ンド音楽とポーランド人作曲家フリデリック・ショ
パンのスタイルをポーランドの作家ヴィトルト・ゴ
ンブローヴィッチ(1905〜69。ポーランド的な大時代
性を否定した作家。だが彼の作品にはポーランド人
しか出てこない)的なユーモアと掛け合わせた曲の
シリーズの一つ。メロディは前作のポロネーズのよ
うに同形反復的で、コード進行はショパン的。前作
と違うのは、これもショパンがよく使う方法です
が、ディミニッシュ・コード上でカデンツ(=即興
的名人芸)風演奏をする間奏、ファンキーなベース
ラインなどです。

7. The Spy Who Loved JB Too Much
ザ・スパイ・フー・ラヴド・JB・トゥー・マッチ
言うまでもなく捏造と贋作版スパイ・ムーヴィー音
楽。(タイトルを見て、007シリーズの一作とヒッチ
コックの映画のタイトルが思い浮かぶとすれば…)。
ここでのJBはダブル・ミーニング的。答えは歌詞と
ブラスのフィルに隠されています。
いかにも映画音楽風音楽から本編へとスイッチする
のはアメリカ版「ヘルプ!」(ビートルズ)のパロ
ディ。もっともこちらはアメリカ版「ヘルプ!」の
ようなオーケストラではなく劣化したシンセサイ
ザー・サウンドですが。イントロのコード進行は
「ゴールドフィンガー」と同じです。間奏はスパイ
というよりはフィルム・ノワール風で、ヴォカリー
ズのオスティナートとともに各自のソロ(ブラ
ボーー宮野ー増井ー上野)が聞かれます。間奏後の
サビ以降のメロディは前半と変わってメジャーに転
調します。

8. La vie urbaine
ラ・ヴィー・ユルベヌ
捏造と贋作にしては都会派風サウンドです。ここで
の久保田氏の歌い方はルー・リードの"Perfect Day"を
意識しているようです。歌詞も坦々としていてドラ
マチックでないところが効果的。曲はタワー・オ
ブ・パワーのバラードなどを意識しています。間奏
はグレッグ・オールマンの"Queen of Heart"を意識しま
した。
ソロはまずビートがジャズ・ワルツに変わり増井ー
上野ー田澤ー宮野、テンポ/ビートが元に戻ってか
ら矢島という構成です。

9. Sunny Raindrops
サニー・レインドロップス
バブルガム・トリロジーとして作った曲の一曲で
す。Don Juan or Tristan?が上行するメロディなのに対し
こちらは下降するメロディです。タイトルは映画
「オーケストラの少女」(1938)の中でディアナ・
ダービンが歌った"It's Rainy Sunbeams"(太陽の雨が降
る)を反転させました。間奏のサンプル&ホールド
によるピッチ・モジュレーションは70s後半に時折使
われた方法ですが今聞くとどう聞かれるか興味深い
ところです。

10. Youth Song
ユース・ソング
これもバブルガム・トリロジーの一環として作った
曲です。メロディとコードの関係は初期ビートルズ
が使ったようなもの(VIの時トップがセブンス。"She 
Loves You")だったりします。バブルガム・サウン
ド、もしくは1967〜68年ころのポップスにはしばしば
18世紀クラシック風のフレーズが登場しますが、そ
れを踏襲しました。途中で一瞬ファンファーレ風の
部分がありますが、Asin Insaneのイントロがガブリ
エーリ風(初期バロック)だったのに対しこちらは
ヘンデル(1685〜1758)風(後期バロック)です。間
奏はバブルガムというより、コード進行はウェス
ト・コースト風、ソロのフレーズはプログレッシ
ヴ・ロック風です。

11. Millie
アルバム最後の曲はテクノ/ディスコ風です。ス
パークスがジョルジョ・モロダーのプロデュースで
録音したアルバム"No.1 in Heaven"の中の"My Other Voice"、
10ccのコード進行などに触発されています。シンセ
サイザーのシークエンスもダビングされてますが、
フェンダー・ローズ、ワウ・ギター、ベース、ドラ
ムス、コンガのリズム・セクションはテクノという
よりはディスコ的です。なんとワンテイクという宮 野氏

によるアドリブがとても素晴らしい。                    top